大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成11年(行コ)257号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が固定資産課税台帳に登録された原判決添付の別紙一物件目録記載の各土地の平成九年度の価格についてした平成九年一〇月八日付け審査申出棄却決定のうち、右各土地の価格が原判決添付の別紙二「平成五年度固定資産評価額一覧表」記載の価格を超える部分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるので、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決三頁四行目に「平成八年五月二九日」とあるのを「平成九年一〇月八日」と改める。

2  原判決四頁一二行目に「市町村長」とあるのを「市町村」と、九頁三、四行目に「(4)塩田、(5)鉱泉地、(6)池沼、(7)山林、(8)牧場、(9)原野、(10)雑種地」とあるのを「(4)鉱泉地、(5)池沼、(6)山林、(7)牧場、(8)原野、(9)雑種地」とそれぞれ改める。

3  原判決一八頁四行目の「「二方路線影響評価加算率」」とあるのを「取扱要領付表3の「二方路線影響加算率」」と改める。

4  原判決二三頁二行目に「同所一七三八番一、同所一七三八番一」とあるのを「同所一七三八番一」と、同八行目、同一三行目及び二四頁六行目にいずれも「取扱要領付表1」とあるのを「取扱要領別表1」と、同八、九行目に「取扱要領付表2に基づき、側方路線影響加算率」とあるのを「取扱要領付表3に基づき、二方路線影響加算率」とそれぞれ改める。

5  原判決二六頁一〇行目の「不正形地補正」とあるのを「不整形地補正」と改める。

6  原判決二七頁六行目から三〇頁八行目までを次のとおり改める。「(控訴人の主張)

(一) 法四三二条一項は、固定資産課税台帳に登録された事項に不服がある場合、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる旨を規定し、東京都都税条例一四〇条一項は、「固定資産課税台帳に登録された事項・・・に関する不服を審査決定するために、東京都固定資産評価審査委員会を置く。」と規定する。したがって、被控訴人の審査決定は、納税者の審査の申出にかかる不服の範囲内においてされるべきであり、被控訴人は、審査の申出がされない事項について審査決定をする権限を有しない(処分権主義)。

(二) 控訴人は、被控訴人に対し、基準年度である平成六年度の本件各土地の価格が過去一年間の地価下落を反映していないことに関して審査の申出をしたのみであった。

それにもかかわらず、被控訴人は、本件各土地について独自に隣接地との画地認定を行った。

(三) 被控訴人が、このように控訴人の審査の申出をしない画地認定を行ったことは、右各法令の定める処分権主義に反し、ひいては憲法三一条(適正な手続の保障)に反する。

(被控訴人の主張)

(一) 固定資産評価審査委員会の審査においては、書面審理を原則としながら口頭審理の制度も設けている(法四三三条)が、この審査決定の手続は、簡易迅速な手続によって納税者の権利利益の救済を図るとともに行政の適正な運営を確保することを目的とするものであって、行政手続の一環をなすから、民事訴訟におけるような厳格な口頭審理等の方式が要請されているものではなく、まして処分権主義が妥当するものではない。

(二) 控訴人は、本件各土地の価格について審査の申出をしたから、被控訴人が本件決定をする際に隣接地六筆との画地認定をしたとしても、本件決定が処分権主義に反することはない。」

7  原判決三四頁九行目に「あるいはし」とあるのを「あるいは」と、三五頁四行目に「本各件土地」とあるのを「本件各土地」とそれぞれ改める。

8  原判決三九頁五行目及び同一二行目にいずれも「他の六筆の土地」とあるのを「隣接地六筆」と、四〇頁六行目に「②」とあるのを「③」と、同九行目に「③」とあるのを「④」と、四一頁一行目に「前提とするば」とあるのを「前提とすれば」と、四四頁七行目に「以上より、原告は」とあるのを「以上により、」とそれぞれ改める。

9  原判決四五頁一三行目、四六頁一行目に「適用しないこには」とあるのを「適用しないことには」と、四八頁一行目に「不正形地補正」とあるのを「不整形地補正」と、四九頁一行目に「想定整形地で」とあるのを「想定整形地の地積で」と、同四行目に「不整形地割合」とあるのを「不整形地補正割合」と、同一〇行目に「他の六筆の土地」とあるのを「隣接地六筆」と、五二頁五行目に「いずれ」とあるのを「いずれの」と、同一二行目に「評価替えおいても」とあるのを「評価替えにおいても」と、五三頁二行目に「行われた」とあるのを「行われない」とそれぞれ改める。

10  原判決五三頁七行目に「争点4」とあるのを「争点5」と改める。

11  原判決七五頁四行目に「原告別表二6」とあるのを「原告別表二7」と、同一〇行目に「取扱要領付表1」とあるのを「取扱要領別表1」と、同一二行目に「原告別表二5①」とあるのを「原告別表二6(イ)」と、七六頁四行目及び同一三行目にいずれも「取扱要領付表1」とあるのを「取扱要領別表1」と、同八、九行目に「原告別表二5①」とあるのを「原告別表二6(ロ)」と、七七頁四行目に「原告別表二5①」とあるのを「原告別表二6(ハ)」とそれぞれ改める。

二  当審における補充主張

1  控訴人の主張

(一) 被控訴人主張の画地の認定が適正であるか否か(争点2)

(1) そもそも土地に対して課する固定資産税は、土地の所有という事実のみに着目し、その更地としての価値に担税力を認めて課税されるものであって、土地から生ずる収益に着目して課税される収益税とは異なる。このような課税の趣旨から、土地の評価基準等は、土地売買実例価額を基準とする方法によって評価することとし、収益還元法等によって評価することとしていない(収益還元法によって土地を評価すると、土地の現実の使用収益ないし有効利用の程度によって、評価に大きな差を生じ、結果的に極めて不公平なものとなる。)。

(2) このような土地の評価の原則にかんがみれば、画地の範囲は、具体的な利用関係を捨象し、取引単位を基準として認定されなければならない。

したがって、例えば、仮に二つの土地が一体として利用されているとしても、その処分のことを考慮すると、同一人が所有する土地のみを一画地と認定すべきであって、別人が所有する土地を含めて一画地と認定すべきではない(仮に、別人が所有する土地を含めて一画地と認定して評価すると、その場合には、いわば各土地所有者が同時に二つの土地を処分することを仮定して評価したことになるが、実際に二つの土地が同時に処分されることはないし、たとえ各土地所有者が二つの土地を同時に処分したとしても、その二つの土地の売買価額は、それぞれ位置、形状、地積等が異なるために、相互に全くかかわりがないものになる筈であるからである。)また、二つの土地が一体として利用されている場合には、一方の土地の利用方法は他方の土地の利用方法によって制限され、その譲渡も事実上制限されるから、そのような制限を考慮に入れた評価を行わなければならないはずである。

被控訴人が主張するように、別人が所有する土地(とくに高価な路線価の正面路線に接する他の土地)を含めて一画地と認定すると、たとえ右の利用方法の制限を考慮に入れたとしても、なお不合理に高額の固定資産税が課されることになる。

(3) 以上によれば、評価基準等の例外規定は、少なくとも同一人が所有する数筆の土地上に一つの建物が建っている場合に限定されるべきであり、別人が所有する数筆の土地を含めて一画地と認定して評価することは、法の趣旨に反し違法である。

(二) 都知事が本件各土地の固定資産評価額の評価に当たり評価基準等に従ってした時点修正が評価方法として違法かどうか(争点4)

(1) 法三四九条一項にいう「賦課期日における価格」は、平成九年一月一日における適正な時価であるから、地価が下落傾向にある場合には、それ以前の地価の動向から想定して、標準宅地等の評価に右賦課期日(平成九年一月一日)までの地価の下落をできる限り反映させなければならない。

本件各土地を含む港区全域の不動産価格は、価格調査基準日である平成八年一月一日から賦課期日である平成九年一月一日までの間、一貫して下落している。したがって、本件においては、平成八年七月一日から賦課期日である平成九年一月一日までの六か月間に、平成八年一月一日から同年七月一日までの六か月間の下落率(〇・九二)が継続するものと想定して、これを評価に反映させるべきである。

(2) いわゆる七割評価は、土地基本法一六条及び政府の政策目的の実現、評価の安定性、課税の謙抑性等の見地から、地価公示価格の七割程度を評価の基準としたものであり、賦課期日までの時点修正を目的とするものではない。

したがって、被控訴人がいうように平成八年一月一日から平成九年一月一日までの地価下落率が三割を超えない以上、本件各登録価格は「適正な時価」(客観的交換価値)の範囲内にあり、許容されるということは、固定資産の価格の評価に当たって、一定の基準に基づき評価し、全国的に評価の均衡を図ることを求める法の趣旨に反するし、七割評価の本来の趣旨にも合致しない。

2  被控訴人の主張

(一) 被控訴人主張の画地の認定が適正であるか否か(争点2)

(1) 評傭基準等は、隣接する二筆以上の宅地を同一画地と認定する場合を所有者が同一の場合に限定してはいない。

(2) 評価基準等が、三筆以上の宅地が一体として利用されている場合に、これらの各土地の位置、形状等を捨象し、当該画地全体を一画地として評価することとしているのは、それぞれの土地が単独で利用されている場合に較べて、形状、地積、接道状況等の点で利用価値が増大し、それだけ客観的価埴も上昇するからである。これに反し、実際の利用状況に従って画地の認定を許さないとすると、その利用価値ひいては交換価値について妥当な評価をすることが不可能となり、かつ、宅地相互間の評価についても不均衡を生ずることになる。

(3) 控訴人は、別人が所有する土地を含めて一画地と認定して評価すれば、いわば各土地所有者が同時に二つの土地を処分することを期待して評価することになると主張する。

しかし、控訴人の右主張は、固定資産税が固定資産自体の資産価値、土地でいえばその更地価格に着目して課税される財産税であることを看過するものであって、失当である。

(二) 都知事が本件各土地の固定資産評価額の評緬に当たり評価基準等に従ってした時点修正が評価方法として違法かどうか(争点4)

(1) 「適正な時価」の算定基準日は、賦課期日から評価事務に要する一定期間を遡った過去の時点に求めれば足りる。

ア 法三四九条一項は、固定資産税の「課税標準」を「基準年度に係る賦課期日における価格」(「適正な時価」(法三四一条五号))で「土地課税台帳・・・に登録されたもの」と規定しているにすぎない。

しかるところ、法四一〇条は、市町村長が、固定資産の価格を毎年二月末日までに決定しなければならないとしているから、「適正な時価」の算定基準日を「基準年度に係る賦課期日」(一月一日)とすると、二月末日までの二か月間に、一方で、①標準宅地の鑑定評価を行い、②これに基づいて、当該標準宅地に沿接する主要な街路に路線価を付設し、③さらに、これに比準して、主要な衝路以外の街路に路線価を付設した上で、④画地計算法を適用して各筆の評点数を算出し、価格を決定しなければならないし、他方で、⑤納税者全体の公平を図るために標準宅地の適正な時価を調整しなければならない。しかし、このようなことは、実務上到底不可能である。

そうすると、右の賦課期日に「土地課税台帳・・・に登録された」価格とは、これらの手続を履践した上で賦課期日に土地課税台帳に登録することができる価格を意味するから、法は、賦課期日から評価事務に要する一定期間を遡った過去の時点の価格をもって賦課期日における価格とすることを予定している。

イ そして、前記の「適正な時価」の算定基準日から「基準年度に係る賦課期日」までの価格変動は、これを考慮すべきではない。なぜならば、不動産の鑑定評価は、不動産鑑定士が、「不動産鑑定評価基準」(平成二年一〇月二六日、土地鑑定委員会の国土庁長官に対する答申)によってすべきところ、右「不動産鑑定評価基準」は、将来の価格変動を鑑定評価の要因としていないし、将来の鑑定評価は、不確実な評価とならざるを得ないので、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項・総論」(同右)においてもこれをするべきではないとされている(そして、将来の鑑定評価によらないで、あらかじめ想定される価格下落率を折り込むことも不可能である。)からである。

(2) 原判決がいう「適正な時価」の意義は必ずしも明らかではないが、平成九年一月一日時点(実際には平成八年七月一日時点)の客観的時価の七割程度と-判断するようである。

しかしながら、固定資産税は、資産の所有に着目して課税される財産税であり、したがって、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(法三四一条五号)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的交換価値をいうから、原判決の右判断は、相当でない。

(3) 仮に、本件各土地の固定資産評価額が平成九年一月一日時点の「適正な時価」を超えないことを要するとしても、控訴人の主張によっても、平成八年一月一日から平成九年一月一日までの地価変動率はマイナス一三・二パーセント、平成八年七月一日から平成九年一月一日までの地価変動率はマイナス五・二パーセントにすぎないから、本件各土地の価格が「適正な時価」の範囲内にあることは明らかである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないと判断する。

その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「第三 当裁判所の判断」に認定説示するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八四頁一一行目から八七頁八行目までを次のとおり改める。

「1 証拠(甲二、三、四の1ないし9、一四、二六)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

控訴人は、被控訴人に対し、平成六年五月二日、本件各土地の平成六年度の登録価格について、過去一年間の地価下落を反映させるべきであるとの理由で審査の申出をした。そして、控訴人は、弁ばく書、再弁ばく書、再々弁ばく書において、本件各土地の正面路線の選定に誤りがあること、正面路線に接する土地の間口狭小補正がされていないこと等を主張した。

被控訴人は、平成八年五月二九日付けで、右控訴人の右審査申出を棄却する旨の決定をしたが、その際、右正面路線の選定、間口狭小補正の適用について、本件各土地と港区α一七一二番二、同所一七二一番二、同所一七二四番一の各土地とを一画地として評価すべきであり、これに従って算出した本件各土地の評価額は、平成六年度登録価格を超えるが、審査申出人(控訴人)に不利益にその評価額を変更することはできないと説示した。

都知事等は、被控訴人のような画地の認定が相当であり、当初決定した本件各土地の固定資産評価額には誤りがあるとして、固定資産課税台帳登録価格を原判決添付の別紙四「修正後平成九年度固定資産評価額一覧表」記載の価格(本件各登録価格)に修正し、再登録をした。

2  控訴人は、被控訴人が控訴人の審査の申出をしない画地認定を行ったことは、処分権主義に反し、ひいては憲法三一条に反する旨主張する。

しかしながら、右に認定したところによれば、被控訴人は、控訴人が不服の申立てをした正面路線の選定、間口狭小補正の適用の可否を判断するに際して本件各土地について画地認定をしたにすぎず、しかもその結果、本件各土地の評価額は平成六年度の評価額を超えたが、審査申出人(控訴人)に不利益に右評価額を変更することはできないとして、審査申出を棄却するにとどめている。してみると、右手続に控訴人の主張するような違法、違憲なところはない。控訴人の右主張は採用することができない。」

2  原判決八八頁六行目の「恒久的建物」から七行目の「明らかな土地」までを「一個又は数個の建物が存在し、一体として利用されている宅地」と、同一〇行目及び八九頁七行目にいずれも「恒久的建物」とあるのを「建物」とそれぞれ改める。

3  原判決九二頁七行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 控訴人は、①土地にかかる固定資産税は、土地(更地)の所有という事実に着目して課税されるから、画地の範囲は、具体的な利用関係を捨象し、取引単位を基準として認定すべきである、②二筆以上の土地が一体として利用されていたとしても一体として処分されることはないし、その売買価格は、それぞれの位置、形状、地積等が異なるために相互に全くかかわりがないものになる上、③一方の土地の利用方法は他方の土地の利用方法によって制限され、その譲渡も事実上制限されるから、当該各土地を一体として評価すると、不合理に高額な固定資産税を課すことになる旨主張する。

確かに、土地にかかる固定資産税は、更地としての価値に担税力を認めて課税するものであるが、それだからといって直ちに具体的な利用関係を捨象して画地の範囲を認定しなければならないわけではなく、二筆以上の土地の上に建物が建てられ、一体として利用されている場合において、当該各土地が単独で利用されている場合と比較すると、その位置(接道状況を含む。)、形状、地積等につき客観的な使用価値が高まり、ひいては交換価値が上昇するときには、当該各土地を一画地と認定し、その上昇した交換価値相当分も加えて当該各土地の評価額とすることが相当である(ただし、具体的な事案においてはその交換価値の上昇の有無、程度につき慎重に検討しなければならないことは当然である。)。控訴人の右主張は、この趣旨に沿う限度で相当であるが、これを超える部分は不当であって、採用することができない。

もっとも、本件の場合、当事者双方から提出された主張立証をすべて仔細に検討しても、①本件各土地及び本件隣接地六筆を合わせた土地を一画地と認定した場合には、②本件各土地のみを一画地と認定した場合と比較すると、本件各土地の使用価値ひいては交換価値が上昇したか、上昇したとするとその程度はどうか、について的確に認定することができない。そこで、当裁判所は、これに代えて、①本件各土地及び本件隣接地六筆を合わせた土地を一画地と認定した場合の本件各土地の価格(以下四ないし七)と②本件各土地のみを一画地と認定した場合の本件各土地の価格(同八)とをそれぞれ算出し、それらの価格が本件各登録価格を下回るかどうか、について検討することとする。」

4  原判決九六頁一〇行目に「一〇〇〇平方メートル」とあるのを「一万平方メートル」と改める。

5  原判決九七頁一〇行目から一〇三頁八行目までを次のとおり改める。

「1(一) 法は、「基準年度に係る賦課期日における価格」で土地課税台帳等に「登録されたもの」を基準年度の固定資産税の課税標準とし(法三四九条一項)、その登録されるべき価格は、基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の一月一日。法三五九条)における適正な時価(法三四一条五号)としている。したがって、右の登録価格となる適正な時価を算定すべき日は、右の賦課期日であり(換言すると、法が、賦課期日以外の特定の日における価格をもつて賦課期日における価格とみなすことを許容していると解することはできない。)、本件についていえば、平成九年一月一日となる。

(二) 被控訴人は、現行法の下では、「登録価格」と「課税標準」とが乖離しているから、「登録価格」を「基準年度に係る賦課期日における価格」と解することはできないと主張するが、法附則一七条の二により課税標準の負担調整措置が、法附則一八条により税額の負担調整措置がそれぞれとられていることをもって、「登録価格」が「基準年度に係る賦課期日」における「価格」(適正な時価)であることが左右されるものではないし、他に被控訴人の主張の根拠となる規定は存しないから、被控訴人の右主張は採用することができない。

(三) もっとも、法は、市町村長が毎年二月末日までに登録価格を決定すべきものとしている(法四一〇条)ところ、固定資産は大量に(弁論の全趣旨によれば、土地は全国で約一億七五〇〇万筆ある。)しかも多種多様な状態で存在し、かつ、その相互の間の均衡を確保するために調整を必要とするから、固定資産の「適正な時価」を決定する手続に毎年(とりわけ基準年度の初日の属する年)相当の期間を要することは、被控訴人の主張するとおりである。この点を考慮すると、賦課期日における価格算定の資料とするために、賦課期日からこれらの評定事務に要する相当な期間を遡った時点を標準宅地等の価格調査の基準日とすることを法が禁止しているものとは解することはできない。したがって、評価基準が、「宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の一月一日の地価公示法・・・による公示価格・・・等を活用することとし、これらの価格の七割を目途として評定する」(第1章第12節一)旨を、「平成九年度の宅地の評価においては、市町村長は、平成八年一月一日から平成八年七月一日までの間に標準宅地等の価格が下落したと認める場合には、・・・評価額修正を加えることができる」(第1章第12節二)旨をそれぞれ定めていることは、評価額修正の終期を除き首肯することができる。

2(一) 被控訴人は、固定資産税の課税が適正に行われるためには、①全国の土地を同一の基準(評価基準)で評価し、②その相互の均衡を図るために所要の調整を行う必要があるから、市町村長が固定資産の価格を毎年二月末日までに決定することは、実務上到底不可能であるし、価格調査基準日の価格にあらかじめ想定される価格下落率を折り込むこともできない旨主張する。

しかしながら、価格調査基準日の適正な価格を前提とし、その後の価格下落率による修正を加えて、「基準年度に係る賦課期日」における「適正な時価」を算定することは不可能ではないから、被控訴人の右主張は、採用することができない。

(二) また、被控訴人は、賦課期日に「土地課税台帳・・・に登録された」価格とは、法三八八条一項所定の固定資産評価基準における手続を履践した上で賦課期日に土地課税台帳に登録することができる価格を意味すると主張する。

しかし、法三八八条一項所定の固定資産評価基準等に従って前記価格調査基準日の標準宅地等の価格調査をした上で、地価の下落による修正を加えることが法令に違反すると解すべき根拠はないから、被控訴人の右主張は採用することができない。

3 右のとおり、本件の場合、「適正な時価」は、賦課期日である平成九年一月一日における価格を意味するが、評価基準等によって評価したとしても、その具体的な評価額については自ずから若干の相違が生ずることは避け難いから、客観的時価を超えることを避けるという課税の謙抑性に従い、あらかじめ減額された価格をもって標準宅地の適正な時価として扱うことは許される。したがって、七割評価による修正を経た登録価格は、賦課期日における価格(客観的時価)を超えない限り、違法ではないというべきである。

七 本件各土地の平成九年度の賦課期日における価格をいくらとすべきか(争点6)について

前記第二の二記載の事実及び三記載の被控訴人主張の本件各土地の評価の基礎、価格の算出過程のうち当事者間に争いがない部分並びに前記二ないし六に説示したところに基づいて、本件各土地の平成九年度の賦課期日(平成九年一月一日)における客観的時価を算定すると、次のとおりとなる。

1  本件各標準宅地の平成八年一月一日時点の不動産鑑定価格等は、当事者間に争いがない(b標準宅地については、平成七年七月一日時点の時価が一平方メートル当たり三七八万円であること、平成八年一月一日までの時点修正率をマイナス一五パーセントとすることはいずれも当事者間に争いがないので、これによって計算した。一万円未満切捨て。)。

(一) a標準宅地 一平方メートル当たり四七五万円

(二) b標準宅地 一平方メートル当たり三二一万円

(三) c標準宅地 一平方メートル当たり一二〇万円」

6 原判決一〇三頁九行目に「前記六」とあるのを「前記五」と、一〇三頁一三行目から一〇四頁一行目、同九行目、同一〇行目にいずれも「本件各土地」とあるのを「本件各土地及び本件隣接地六筆を合わせた画地」と、一〇四頁四行目に「取扱要領5」とあるのを「取扱要領付表5」と、同一二行目に「取扱要領付表1」とあるのを「取扱要領別表1」とそれぞれ改める。

7 原判決一〇五頁一行目から一〇九頁八行目までを次のとおり改める。

「3 次に、平成八年一月一日から賦課期日である平成九年一月一日までの時点修正率について検討する。

控訴人は、当審において、平成八年一月一日から同年七月一日までの六か月間の地価下落率(〇・九二)が平成八年七月一日から平成九年一月一日までの六か月間にも継続すると想定すべきである旨主張する。

しかしながら、甲二一によれば、平成八年一月一日から平成九年一月一日までの港区内の全地価公示標準地の平均変動率が一三・二パーセントであることが認められるから、控訴人の右主張に合理性を見出すことはできない。

むしろ、当裁判所は、控訴人が平成八年一月一日から平成九年一月一日までの時点修正率として原審以来右の一三・二パーセントを主張していること、被控訴人も本訴において控訴人の右主張を積極的に争っていないことを考慮して、右時点修正率を〇・八六(小数点第三位以下切捨て)と認める。

4  以上によると、本件各標準宅地の一平方メートル当たりの価格を右1記載の金額とし、また、基本単価の計算に当たり、不整形地補正率〇・九五を適用し、さらに、平成八年一月一日から平成九年一月一日までの地価下落率は、右3認定の〇・八六を用い、他は前記第二の三記載の被控訴人主張の評価方法及び取扱要領に従って、本件各土地の平成九年一月一日時点における客観的時価を求めると、別紙一「本件各土地の価格計算表1」に記載の各金額、すなわち、別紙二「価格一覧表一」一ないし九記載の各金額となる。

八 本件各土地のみを一画地と認定した場合、本件各土地の平成九年度の賦課期日における価格をいくらとすべきかについて控訴人が主張するように、本件各土地のみを一画地と認定した場合、その平成九年度の賦課期日における価格は次のとおりである。

1  正面路線の選定について

控訴人は、本件各土地は、路線A(六本木通り)にはわずか三・五九メートルしか接していないのに対し、路線Bにはおよそ五三・二メートル接しているから、正面路線として路線Bを選定すべきである旨主張する。

しかしながら、前述のとおり、建築基準法四三条の規定を受けて、取扱要領第4の1では、「二以上の路線に沿接する画地にあっては、原則として路線価の高い方を正面路線とする。ただし、路線価の高い方の間口が二メートル未満で、当該画地の状況、形状等から、その路線の影響がほとんどないと認められ、かつ、当該路線に接する宅地との均衡を失しない場合は、それ以外の路線を正面路線とすることができる。」旨規定しており、右規定は合理性を有するものと認められる。そして、証拠(甲二二、乙二)によれば、本件各土地は、路線Aに三・五九五メートル接しているほか、本件各土地の状況、形状等から、路線Aの影響がほとんどないとまでは認められない。

控訴人は、本件各土地のうち路線Aに接する部分は、ほとんど利用価値を持たず、実際にも、路線Bの歩道の拡張部分となっていると主張する。しかし、右乙二によれば、本件各土地上の建物の敷地としても利用されていることが認められ、控訴人の右主張は採用することができない。してみると、本件各土地を一画地と認定した場合であっても、正面路線として路線Aを選定することが相当と認められ、控訴人の右主張は採用することができない。

2  賦課期日における価格について

(一) 不整形地補正について

証拠(甲九、二二、乙二、一四)及び弁論の全趣旨によれば、本件各土地を合わせた一画地は、凹凸がある画地ではあるものの、その敷地面積は八〇〇〇平方メートルを超えて極めて広大であり、三方で路線に接していること、取扱要領第11(甲九)を参照して検討すれば、右画地の形状は取扱要領にいう「不整形のもの」に該当する(補正率〇・九〇)ものと認めるのが相当である(なお、財産評価基本通達に基づく陰地割合による不整形地補正率は〇・九四となる。)。

(二) 証拠(甲二二)及び弁論の全趣旨によれば、正面路線(路線A)における本件各土地の間口距離は三・五九五メートル、奥行は一三三・二メートルであって、奥行距離を間口距離で除した割合は九以上となるから、基本単価の計算に当たって適用すべき間口狭小補正率は取扱要領付表4により〇・九〇、奥行長大補正率は取扱要領付表5により〇・九〇となる。

そして、取扱要領第5の3によれば、不整形地については、不整形地補正率と正面路線に対する間口狭小補正率(奥行長大補正に該当する場合は間口狭小補正率に奥行長大補正率を乗じた率)とを比較し、値の小さい方を適用することとされているから、本件の場合、基本単価の計算に当たっては、間口狭小補正率に奥行長大補正率を乗じた率〇・八一を適用すべきことになる。

(三) 証拠(甲二二)及び弁論の全趣旨によれば、二方路線(路線C)における本件各土地の間口距離は一〇・八九九メートル、奥行は一三二・八メートルであって、奥行き距離を間口距離で除した割合は九以上となるから、基本単価の計算に当たって適用すべき奥行長大補正率は取扱要領付表5により〇・九〇となる。

(四) さきに認定したところによれば、正面路線(A路線)から本件各土地への奥行は一三三・二メートル、二方路線(路線C)から本件各土地への奥行きは一三二・八メートルであって、証拠(甲二二)及び弁論の全趣旨によれば、側方路線(B路線)から本件各土地への奥行は一三三・四メートルと認められるから、正面路線、側方路線及び二方路線の路線価を算定するに当たっては、取扱要領別表1に基づき奥行価格補正率〇・七三を適用すべきことになる。

(五) さきに認定したところにより、平成八年一月一日から賦課期日である平成九年一月一日までの時点修正率は、〇・八六を用いる。

(六) そして、他は前記第二の三記載の被控訴人主張の評価方法及び取扱要領に従って、本件各土地の平成九年一月一日時点における客観的時価を求めると、別紙三「本件各土地の価格計算表2」に記載の各金額、すなわち、別紙四「価格一覧表二」一ないし九記載の各金額となる。

九 以上によれば、本件各登録価格は、本件各土地の平成九年度の賦課期日である平成九年一月一日時点の価格を上回ることがない(本件各土地のみを同一画地と認定しても同様である。)から、本件審査申出棄却決定に違法はない。」

二  結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 佐藤武彦 裁判官 揖斐潔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例